映文計

映画と文房具と時計、好きなものから1文字ずつもらって「映文計」。映画のことを中心に日々綴っていきます。

3/2(火)アトロク 762回

■18:00~18:30頃
「オープニング」→最新カルチャートピックス

気圧のせいで目玉が飛び出しそうな宇垣さん。

天気のせいでぼ〜っとしてしまうと言う宇多丸さん。

宇多丸さん:ローテンションでお送りしております

宇多丸さん・宇垣さん:アフター!(二人同時に発声)

宇多丸さん:ああクソ!

 

宇垣さん、仕事絡みでのカルチャー摂取ばかりで自主的に接種しているものが少ない。

 

リスナーメール

先日宇垣さんが話題にしていた『クイーンズギャンビット』がゴールデングローブ賞テレビ部門主演女優賞を受賞!

 

宇垣さん『ノマドランド』を観て

現在の遊牧民たるノマドワーカー。

心安らぐ場所たる「ハウス」はどこにあるのか、「ホームレス」ならぬ「ハウスレス」と呼ばれる人々に思いを馳せる。

 

宇多丸さん:こういうときに宇垣さんがチョロリと話してくれたことが後に活きる。

 

トミヤマユキコさん、カラテカ矢部さんが手塚治虫文化賞の選入ったと言うこと言うことで「実質アトロクじゃん!」という名言も飛び出す笑

 

過半数を読破しているという宇垣さん。

先日完結した『大奥』の素晴らしい着地に絶賛。

『THE POWER』を思い出した。

「男女の立場がただ変わっただけなんだ」

「愚かなんですよ」

 

宇多丸さん:宇垣さんをしてそこまで言わしめるなんて

 

宇垣さん:教科書に載って欲しい。教科書に載るというのが何なのか分からないけど笑

 

今日の特集もあって『白い鶴よ〜』を読破したという宇多丸さん。

単純に一つの作品としても面白かった、世界中で起こっている問題への態度が示されている、勉強させられた作品と評価。

 

カルチャーニュース

この週末に色色カルチャー摂取をして来た宇多丸さん。

小山内さんのおすすめに従って東京都庭園美術館へ。

旧宮家の建物自体が立派で内部公開されているのに加え、20世紀のポスターアート、ポスター思想の変遷を辿ることの出来る展示。

 

かつては平民は入ることの許されなかった空間が開放され、表現が万人に開かれるきべであるというポスターアートの思想。

かつて閉ざされていたが今開かれている空間でポスターアートを見るという皮肉を感じる展示がとても良かった。庭園も勿論素晴らしかった。

 

コーナー紹介で原稿を何処かにやってしまった宇多丸さん。すかさずヘルプに入る宇垣さん。

 

My Sweet Homeの紹介で「こんなに嬉しいことは無い」部分の宇多丸さんの読みに「そんなに上手く読めないな笑」という宇垣さん。

「年期が違いますから」と宇多丸さん。さすが1sjガンダムリアタイ世代!笑

 

カルチャーニュース

加藤シゲアキさん『オルタネート』直木賞受賞決定!

 

■18:30~18:50頃
「カルチャートーク」→ 星泉(東京外国語大学/ チベットの文学シーン)

『白い鶴よ翼を貸しておくれ』の翻訳を手掛けた星泉さん出演。

 

昨年宇垣さんが紹介してくれたことをTwitterでフォロワーさんに教えていただく。

宇垣さんの説明に涙。

チベット文学の啓蒙活動しているがラジオを始めとしたメディアで紹介されたのが初めてで興奮!

 

宇多丸さん:宇垣さん縁と言うこと言うことで宇垣さん宜しくお願いいたします!

 

星さん『ラシャムジャ雪を待つ』など

BGにザ・おめでたズ流れる。先週のライブ&ダイレクトを聞いてファンになったとのこと!

 

宇垣さん:大河ドラマ一年分見たようなボリューム。

劇中描写のその後を思うと胸が苦しくなる。人々を分断することの愚かさ。

 

宇多丸さん:やんちゃな少年が一線を越えるか越えないかを描いた作品。

世界中にあるテーマでは?

 

星さん:作者のお爺さんがインドと往復するキャラバンを率いていた。

お父さんは英語を話せる人だった。

「初めて」尽くしの人で「初めて西洋医学を学んだチベット人」、「初めて英語で小説を著したチベット人」。

 

宇多丸さん:まさにチベット文化と西洋文化の狭間にいたからこそ書けた小説という感じがする。

 

星さん:お婆ちゃん子でロンドンの学校で学んだことをおばあちゃんに話す。

チベット仏教に帰依するお婆ちゃんは西洋化学を信じない。

ロンドンではステレオタイプなチベット観が凝り固まっている。

そんな幼少期を過ごしてきた。

 

 

 

■19:00~19:25頃
「LIVE & DIRECT」→ TAAR(DJ/プロデューサー)

 

 

■19:45-19:55頃
「新概念提唱型投稿コーナー」→ My Sweet HOME(ホーメ)

今日の星さんの言葉もかなり宇垣さんにとってHomeなのでは?

 

ういろうは何かの素材さん

みのわださんの「ミノは格好良くも悪くもない、ちょどまんなかだな」と言われたHomeを聴いて思いだした。

 

教科書写真のモデルを務めて欲しいと先生に言われた。

「痩せすぎても、太りすぎてもなく、丁度良いから」

 

宇多丸さん:教科書においても恥ずかしくない、中庸の最上級と言うこと。

他人様の目に触れて不愉快な思いをさせる陰獣ではない

 

 

アンダーキャッスルさん

大学二年の頃飲み会で言われた言葉。

「君、野球部出身?」

ご存じだと思いますが、球技の才能を奪われた常態でこの世に生を受けた人間。

球技コンプレックスのある自分にとって野球部は仰ぎ見る存在。

 

■20:00~20:45頃
「ビヨンドザカルチャー」→ アニメーションと戦争 by 藤津亮太

『宇宙戦艦ヤマト』、『機動戦士ガンダム』、『超時空要塞マクロス』など日本におけるアニメーション作品の多くは戦争をテーマに描いてきた。

上記のSF作品以外にも史実をベースにした『風立ちぬ』、『この世界の片隅に』などの作品も日本のアニメ作新は多くが戦争をテーマにしている。

新刊『アニメと戦争』が昨日刊行された。

帯が富野由悠季さん、カバーには無数のザクがの描かれた会田誠さんのアート。

 

全10章の章立てで、その中は三つのテーマに大きく別れている。

戦中戦後=1930年代生まれの人々が作品を作っていた時代、ヤマトガンダムの黄金期、そして冷戦後の作品。

 

 戦争について分裂がおこった作品『宇宙戦艦ヤマト』

 監督にクレジットされているのは松本零士だが、西崎義展さんの功績も大きい。

双方「小国民世代」。国民学校に通ってはいたが戦争に行ってはいない。

戦争の「当事者」ではあるが戦場に行ってはいないという特殊な世代。

大和船首にはライフリングの切られた波動砲がついているが、元の戦艦大和には菊の御門がついていた。

戦争をあまりにも直接想起させすぎると菊の御門を排した松本零士と、戦争をロマンと捉え菊の御門を残したかった西崎さんで分裂・捻れが見られる。

結局「正面から見れば菊の御門に見えなくもない」という現在の波動砲のデザインに着地する。

大和vsガミラスの戦いはナチスの敗戦の過程を描いている(制作メモ参照)。

戦後の日本=大和と戦時中のドイツ=ガミラスという構図が見て取れる。

戦艦大和の本物の乗員の方の残した作品に「(戦争に)敗れて目覚める」という言葉がある。

古代進は戦争に勝利こそするが、「敗れて目覚める」という精神に通底する。

 

誰も傷つかない戦争を描いた作品

『機動戦士ガンダム』はヤマトの5年後、1979年放送。

宇宙移民vs地球に住む地球人という人類同士の戦いを描いた。人間同士の国家間戦争という構図を描いたのはガンダムがかなり古い例。

大和の5年後だが、制作サイドの年齢は若返っている。

富野監督が最年長、泰彦先生先生、大河原先生などは団塊の世代にグッと近づいている。

5年後に生まれた作品ながらクリエイターの年齢は10歳ほど若返っている。

「ヤマト」など固有名詞にも戦時中から地続きなものが多数あったが、ガンダムは箱庭的に全ての世界観が史実からは独立した形で完結している。

固有名詞の出し方、世界観の描き方が同時代においては突出してガンダムが洒落ている。

 

宇多丸さん:(フォースという単語が何の説明もなく使われるなど)SWの語り口の影響があったのかも

 

藤津さん:ヒトラーという名前が引用されるくらい。

戦争の記憶を刺激しない。その意味で誰も傷つかない作品。

箱庭の中であれば戦争ごっこを描いてもいいよね、という発見。

ヤマトから5年後にアジア・太平洋戦争から完全に切れた作品が作れるようになった。

 

宇多丸さん:安彦先生はジオリジン執筆にあたって1stは戦争を描いた作品だ、難民など市井の人々を描いた作品だと気づいたと言っていた。安彦先生は戦争という重力に引き戻そうとしたような形跡が見られる

 

藤津さん:クリエイターによってそこの見方は変わってくる。

安彦先生は特に姿勢の人々に視線が近い。

 

宇多丸さん:ガンダムからダグラムに移ってリアルロボットものの定型ができるという話も本書では面白かった。

 

ポスト戦後時代の異彩アニメ『超時空要塞マクロス』

1984年作品。さらにスタッフが若返る。

隕石と思われたものが実は異星人の宇宙船。それを起動するとブービートラップとして敵を攻撃してしまい、戦争に巻き込まれる。

ロボットものにラブコメ要素が混じり、当時の空気感からしてかなり異質。

「新人類」と呼ばれる世代が初めてアニメーション制作の時代に。

80年代は「主義」ではなく「趣味」の世代に。

重すぎる主義はダサい、趣味を軽やかに楽しむ姿勢が良いという潮流があった。

河森さんの後のフィルモグラフィを見るとロボットアニメとラブコメを掛け合わせたこの作品はこの時代だからこそ生まれ得た作品。

2話でミンメイを救った一条。バルキリーに救われた際に髪の毛がぐしゃぐしゃになってしまったミンメイは命を救われた直後髪を気にする。

命と髪どちらが大事なのかと聞かれ、二人で声を揃えて「髪の毛!」というシーンに象徴されている。

マクロス艦内のミスコンテスト。それを見たいがために一条は任務よりもミスコンを優先。

しかし敵の襲撃を受けて渋々出動する一条。出撃した彼はコクピット内でミスコンの中継を見ている。

クリエイター陣にとって戦争はもはやリアルではなく、ブラウン管の中で見るものという空気感がここに現れている。

ガンダムで作られた「箱庭」的手法はその後多くの作品で流儀が受け継がれる。

その過程は戦争経験者が日本から徐々に減っていくことにもつながる。

 

ヤマトの映画は77年。そこからマクロスまでは5年ほど。

その間に世代は三世代、戦争の描き方もここまで変わる。

 

戦後のキーパーソンは小国民世代。1930年代生まれの方。

ロボットアニメを作ると太平洋戦争が現れてくる。

1970年代には少年期に戦争を経験したという文学が多く現れる。自分たちの体験した戦争を下の世代に語りたいという空気感。

『火垂るの墓』もその文脈と無関係ではない。

マクロス世代へのカウンター?「戦争はそんなに客観視して見られるものではないのでは?」というスタンス?

「彼と同じ立場に立てばあなたも同じく間違ってしまうんじゃないですか?」

 

〜愛おぼが流れる〜

宇多丸さん:愛おぼ公開時は冷戦時代。

核戦争の恐怖の投影という部分はどう?

 

藤津さん:FUTURE WAR198X年など生々しい空気感の作品もあった。(制作会社の反対を受けて制作中止に)

 

宇多丸さん:AKIRAのようなポストアポカリプスものはこの時代多かった。

自然災害のように描いていたのが日本の作品群の特徴?

 

藤津さん:マクロスの「反応弾」は爆発後に電波障害が起きたり描写から察するに実質核だが、TV放送することもあり直接「核」という単語は使わない。

 

宇多丸さん:戦争とは距離を置きたいという80年代的空気感を感じる

 

宇多丸さん:マクロス後のアニメにおける戦争の描かれ方は?

 

藤津さん:明確に描いた作品は実は少ない。劇場版パトレイバー2がこのテーマの白眉。

また、「萌ミリ」が00年代前半に確立。ストライクウィッチーズ、ガルパンなど、戦争を作品を面白くする1要素にする作品が目立つ。

 

60年代から「今の戦記物は「戦争の機能美」「個人の道徳的性質」が重視されていて実際の戦争とは違うものだ」という言説は存在した。

今日の戦争の描き方はその傾向が洗練化されたに過ぎないはず。

『アヴァロンの要塞』が地上波放送された時はぎさんが「この作品を見てWW2が完全に講談の世界に入った」と言っていたが納得。

 

『風立ちぬ』『この世界の片隅に』は近年作られた戦争を題材にした作品のうちかなり対照的。

昨今のアニメーション作品に戦争の影響は少ない。近年日本は戦争の当事者になっていないことから。

「趣味」として戦争を消費するくらいの方が幸せなのかもしれない。

 

宇多丸さん:藤津さんがアニメ史に「戦争」という縦軸を引いてくれたおかげでアニメ史が非常にわかりやすかった。

また、宮崎駿というクリエイターがいかに戦争と距離を取ってきたかが分かり面白かった。

著書は今日の特集以上に充実の内容が読めるので、ぜひ!

 

藤津さん:最新刊は宇多丸さんが紹介してくれた。

2/26に10万字に及ぶインタビューをまとめた『ゆうきまさみロングインタビュー』という本が出たのでそちらもぜひ。