11/9(火)
今回は18:30のみならず20時台にも書籍の紹介があるため、量がすごいことに……
推薦図書の絨毯爆撃かよ……
18:30~ 伊藤聡さんの推薦図書
プレゼンターは映画や海外文学に詳しいライターの伊藤さん。
海外文学などのレビューやコラムを公開する会社員兼ライター。
宇多丸さん:19年11月、シノリナさんが代打を務めた木曜日にこの番組ではお馴染みのナオミ・オルダーマンの『パワー』を紹介していただいた。他にはリチャード・パワーズ『オーバーストーリー』など。
リスナー投稿
紙パンツドキドキさん:伊藤聡さんの書いた男性スキンケアのnote読んで実施してます!
伊藤さん:男性はスキンケア絶対やった方が良いです!
宇多丸さん:なんでこんな話になったかというと『DUNE』でティモシー・シャラメを観たからなんですよね。
伊藤さん:IMAXの画面で毛穴が見えないってどういうこと?
『DUNE』を観てすぐ「ティモシー・シャラメ スキンケア」と検索しました。
そんな伊藤さんからの紹介はこんな一作。
口喧嘩の天才。言い返しの瞬発力なら誰にも負けない孤高のチャンピオン
『アフター・クロード』著:アイリス・オーウェンス/訳:渡辺佐智江
『ロリータ』の発刊にも携わったアイリス・オーウェンによる1974年の本。
恋人の男性の住むアパートに転がり込んだハリエットの奮闘記。
口喧嘩の上手い女性を主人公に据えた一作。爆笑問題の太田さんのテンションが乗りに乗った時の様子に近い。
こんなに不毛な小説ってあるの?!と感動した。
宇垣さんの音読……!ハリエットの生意気感の表現が天才的に上手すぎて舌を巻いた!
20:00〜 秋の推薦図書月間特別編
ビヨンド・ザ・カルチャー:ちょっと特殊なミステリー小説『なにこれ!? ミステリー』を読み耽ろう by 池澤春菜(声優・エッセイスト)&日下三蔵(ミステリ・SF評論家)
池澤春菜さん……第20代日本SF作家倶楽部会長、『オービタルクリスマス』で52回星雲賞受賞。
池澤さん:キノコ総選挙で味を占めて「持ち込み企画ありなんだ!」と思って満を持して持ち込みました!
池澤さん:私だけでは心許ないので超強力助っ人を呼んであります。日下三蔵さん!
“歩く百科事典”、“生ける知恵袋”。「困ったことがあれば三蔵法師に聴け」と我々の中では言われている存在。
宇多丸さん:「普通じゃないミステリ」を語るなら「普通のミステリ」を理解しなければ。
〜日下さんによる五分で分かるミステリ小説の歴史〜
日下さん:ミステリ小説とはエドガー・アラン・ポーが確立したと言われるジャンル。
明治期には既に作品の舞台や登場人物を日本人に馴染みのある地名・人名に改めた翻訳版が親しまれていた。
戦時中の空白期間を経て、戦後には金田一耕助で知られる横溝正史さんなどが活躍。
「探偵小説」から「推理小説」にミステリの潮流が変化する。リアル志向の推理小説からの振り戻しでリバイバルブームが来る。赤川次郎さんのユーモアミステリなど、各作家が得意分野で活躍をし出す一方、本格ミステリは低調気味に。
更に時代が下り、島田荘司さんの登場で本格ミステリが再浮上し、1987年、綾辻行人さんの登場によって若いミステリ作家が次々に出て来る「新本格ミステリ」ブームに。京極夏彦さんや宮部みゆきさんが登場し、ミステリ百花繚乱時代に。
宇多丸さん:「謎解き」というジャンルは人類史に於いてもっと早くに登場しても良さそうなものだけど……
池澤春菜さん:刑法や倫理の成熟を待たなければ登場しないジャンルだった。
〜『なにこれ!? ミステリ』の紹介〜
池澤春菜さん:「なにこれ?!」度合いに合わせてレベルを1〜3に設定。各レベルで2冊ずつ、日下さんが日本の作品、私が海外作品を紹介。
レベル1のテーマ「へ〜。そんな設定ありなんだ」
『鋼鉄都市』著:アイザック・アシモフ/訳:福島正実
人間とロボット刑事のコンビによるSFミステリ小説の鉄板にして超傑作!
状況証拠からすれば人間による反抗は不可能。しかしロボットにはロボット三原則があり、人を殺めることは出来ないはず……ミステリは作中に「枷」が無ければならないが、本作における枷は「ロボット三原則」。
人間とロボットのバディものの作品だが、その関係性が尊い!後に「ファンデーションシリーズ」としても刊行される。
高畑さんは電撃ゲーム小説大賞の第一回受賞者。
タイムリープをミステリに組み込んだ作品。タイムリープ能力を持ったヒロインが、タイムリープが出来ない探偵役の男子に事件の相談をしつつ真相に迫る。
タイムリープの秘密が解けると事件の解決に近付くという設定の作品。1997年に映画化。
レベル2のテーマ「えぇ……ちょっと……どうなってるの?」
『七回死んだ男』西澤保彦
同一人物が連続死?時間ループが肝。主人公だけが同じ時間を繰り返す。
お爺ちゃんが殺されてしまう。何度助けようとしても死んでしまうのをどうやって助けるか。
この作品によって「ループもの」というサブジャンルが生まれた。アニメにもなった「リゼロ」もその一つ。
『イリーガル・エイリアン』
著:ロバート・J. ソウヤー/訳:内田 昌之
被害者は地球人、容疑者はエイリアン。
異星人をどう裁く?どうやって陪審員を選ぶ?設定の光る法廷ミステリ。
守るも防ぐも大苦戦。法廷ミステリとしてもノンフィクションとして読めてしまうくらいの作品であるにもかかわらず、「唐揚げ」のような見た目のエイリアンが被告席にいることを思い出す。
異星人とのファーストコンタクトであるため、判決を誤れば惑星感戦争の恐れも……
『ターミナル・エクスペリメント』も紹介しておきたかったが、今は手に入りづらいため断念。
レベル3のテーマ「ミステリ、自由すぎない?!」
『殺竜事件 -a case of dragonslayer』上遠野浩平
密室の洞窟で殺害されていたのは不死身のドラゴン?
ファンタジー世界を舞台にした作品。不死身と言われ、何千年も生きた竜が殺害される。
容疑者として疑われた主人公が探偵として他の容疑者を訪ねて真相を暴いていく。
ファンタジー世界でも枠組みがカッチリしていれば探偵物を描くことができるということを示した傑作。
池澤さんその上で絶対殺せない竜を誰が殺したのか。
Why done itもWho done itもHow done itも全てがレベルアップしている。
日下さん:第4回電撃ゲーム小説大賞受賞者。代表作は『ブギーポップは笑わない』。
今沢山ある「異能バトル物」の小説における元祖のような作品。『ジョジョの奇妙な冒険』が好きな作者で、徐々におけるスタンドバトルは正しく異能バトル。
それ以前にもルーツを辿れば「忍法帳」シリーズなどが挙げられる。
池澤さん
『星を継ぐもの』著:ジェイムズ・P・ホーガン/訳:池央耿
「月面で見付かった死体は五万年前の人間でした」人類総出で調べてみたらとんでもないことが発覚したよ!
大風呂敷×ミステリ!
一つ一つ謎を解いていく過程が『CSI』のように面白い。
「五万年のアリバイ崩し」、「史上最大規模の大風呂敷」
宇多丸さん:宇垣さん、これギョッとするほど面白いから!
レベル3のまだ上がある!とっておきの奴を紹介させてください!
テーマは「+×=○*・%#」
レベル∞(インフィニティ)
『生ける屍の死』山口雅也
死んだ人間が蘇る世界で、死んでる探偵が捜査する。ゾンビ×ミステリ。
日下さん:1989年刊行ということで平成元年の作品。今や古典となったデビュー作。
「肉体の腐敗」というタイムリミットと向き合いつつ謎を解いていく。
連続ネコ殺し事件だと思っていたら、最後はとんでもないことになっちゃった……
作者最大の問題作。児童向けシリーズで刊行され、主人公も小学生。
自らを神様だという転校生の鈴木君は何を聞いても完璧に答えてくれる。「犯人は誰?」と聞くと犯人を教えてくれるが捜査中に仲間が亡くなってしまう。
「犯人に天誅を下す」という鈴木君。果たしてもう一人の死者が出るが、それは本当に天誅なのか。鈴木君は神様なのか。。。
宇垣さん:常軌を逸した友人が麻耶雄嵩さんの作品を好きだったので手を出して来なかったけど、遂に手を出すか……
宇多丸さん:変わった設定やトリッキーなことをやっているからこそ、ミステリーというものの根幹、本質が見える紹介でした。
池澤さん:しっかりした論理構造の上にトリッキーさが加わる本ばかりです!
<まとめ>
レベル1
ロボットミステリー:アイザック・アシモフ『鋼鉄都市』
時間移動ミステリー:『タイムリーパー』
レベル2
時間ループミステリー:『七回死んだ男』
異星人法廷ミステリー:『イリーガル・エイリアン』
レベル3
大風呂敷ミステリ:『星を継ぐもの』
レベル∞
ゾンビミステリ:『生ける屍の死』
神様ミステリ:『神様ゲーム』
日下さんによるおしらせ
光文社文庫より「探偵くらぶ」シリーズを刊行。
谷崎潤一郎、芥川達の短編集を出した。この時代の文豪はミステリを結構書いている。
コナン・ドイルらの作品を原書で読んでいた世代。谷崎潤一郎のミステリは江戸川乱歩に非常に似ている。谷崎潤一郎のミステリを読んで江戸川乱歩がミステリを書き始めた。
池澤春菜さんによるお知らせ
ロバート・スティーブンソンの詩集、そして父と訳したウィリアム・ブレイクの翻訳の第二段が刊行予定。12月に翻訳本が二冊発売予定。
池澤さんによる「レベルインフィニティ」の説明時、「説明不可能」を表現するために池澤さんが放った電子音のような音声が面白すぎて5回はリピートした笑
火曜日は圧倒的な書籍紹介冊数の多さも然る事ながら、アナウンサーである宇垣さん、声優である池澤さんという、声を生業にした二人による声の表現の豊かさを体感できた一日だった。