僕が気になった時計を紹介する「時計アンテナ」の第3回。
- 【NOMOS】METRO NEOMATIK 41 UPDATE 1165 MT161014W2
- 【JUNGHANS】Max Bill Kleine Automatic 027 4106 46
- 【CITIZEN】Eco-Drive One AR5064-57E
- 「世界最薄」を目指して
前回:
eibunkeicinemafreak.hateblo.jp
「ものづくり大国」と聞いたとき、日本人の多くは自分の母国を思い浮かべることだろう。
それは非常に幸運なことだと思う。
では、日本を除いて世界に目を向けたとき、「ものづくり大国」と聞いて想起する国は?
多くの人にとって、それはドイツではないだろうか。
過去二回にわたって僕が興味を持った時計を紹介してきた「時計アンテナ」。
だが、そのどちらにもドイツの時計ブランドは登場していない。
「ものづくり大国」の名をほしいままにするドイツだが、時計ブランドはちょっと押しが弱い。ドイツが弱いというよりもスイスがあまりにも強すぎるという方が正しいのだろうけど。
そんなドイツの時計メーカーで僕が以前から惹かれていたブランドがある。
一つ目はJUNGHANS、そして二つ目がNOMOSだ。
【NOMOS】METRO NEOMATIK 41 UPDATE 1165 MT161014W2
「バウハウス・デザイン」、「バウハウス思想」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
「バウハウス」とは100年前にドイツに設立された美術や工芸を学ぶための大学で、その哲学は「装飾性を拝した機能美」。
今回紹介するモデルはそんなバウハウス思想を体現したようなミニマルな作りの中に、独自性という名のスパイスをピリリとを効かせたかわいらしい一品。
定価は€3,500、日本円にして40万円台の時計。
一般に40万円オーバーの時計であれば(と言うかそれよりも下のカテゴリーであっても)、各社競うようにインデックスの立体感を追求するのが腕時計作りの常だが、NOMOSの文字盤は驚くほどに平坦だ。
このモデルはNOMOSらしいミニマルなフェイスの外周部に一つのギミックを隠している。
窓から覗くこのオレンジの部位はデイトを表している。
帰省時に父親と話をした際、「デジタル時計ってちょっと慣れないんだよな」と言っていた。
デジタル時計は「現在が何時何分なのか、そのものズバリの時間」が分かることがメリット。一方「目標時間まで残りどれくらいか」は計算が必要だ。
対してアナログ時計は「60分の時間の連なりの中で“現在”がどこに位置しているのか」が一目で分かることがメリット。
この前提に立つと、従来の腕時計のデイト機能は「今日が(何月)何日か」というそのものズバリな日付を数字で表示するもので、実はその特性は極めて「デジタル的」あでったと言うことが出来る。
一方、このモデルのデイト機能は「1カ月(最大31日)間の中で“今日”が何処に位置しているか」を示すもので、極めてアナログ的な日付の表し方をしていると感じた。
今までこのようなデイト機能をもったモデルが無かったことが不思議なくらいだ。
(同じモデルがAmazonになかったので、別モデルで)
【JUNGHANS】Max Bill Kleine Automatic 027 4106 46
バウハウスの哲学を体現したようなシンプルさを美しさに昇華させているブランドがJUNGHANS。
このモデルは34mmの小サイズ。
34mmというサイズ感が、ミニマルなフェイスデザインと実にマッチしていると思う。
曲面加工された風防はそれだけでも美しいものだが、風防のカーブに合わせて加工されたラウンドフォルムの裏蓋の加工も見事。
ストレートに加工した場合よりも視覚効果で薄く見えるという以上に、ケースの上下で均整の取れたフォルムは、このブランドの美学を何より雄弁に物語っているように思える。
同社のモデルの中にはアラビア数字のインデックスのものもあるが、今回紹介したモデルのようなバーインデックスの方が「JUNGHANSらしさ」を感じられて僕の好み。
僕は「バウハウス」という思想を文房具のデザインを介して知ったのだが、その思想の何たるかを真には理解してはいなかった。
しかし、JUNGHANSというブランドの時計のデザインに触れて「バウハウスってこういうこと?」と知れた気がした。
【参照】バウハウス思想
【CITIZEN】Eco-Drive One AR5064-57E
「ものづくり大国」と聞いたとき、母国を思い浮かべることができる日本人は幸福であると述べた。
しかし過去15年程の間に、お家芸だったはずの家電が国際市場に於いて悉く他国メーカーの猛追を受け、気が付けば後塵を拝すことになっていたりと悲しい事実もある。
しかし、他国の追い上げが著しい家電業界とは異なり、国際市場の中で変わらず“Made in Japan”が確かなブランドとして輝きを放っている領域が今でもある。
その中の一つが腕時計だ。
世界最薄、厚さ1mmのムーブメントを搭載したCITIZENのエコ・ドライブ ワンシリーズはその象徴と言えるのでは無いだろうか。
ミニマルでソリッドでハイテク。海外の人が日本に抱くイメージを凝縮したような時計だと思う。
ムーブメントをケースに収めても厚さ4mm台。
ブレスレットを構成するコマの一つ一つと殆ど変わらないケース厚は驚異的で、バーゼル・ワールドで公開された年にネットニュースで見かけて「マジか!」と思ったのを思い出す。
この出来事があったのも2016年ということで、もう6年前なのか……
表面加工技術に定評のあるCITIZEN。CITIZENと言えばブラックモデルと言うイメージがあるので、カラーバリエーションの中から黒い物を選んでみた。
時計好きなら機械式に興味が湧くのも道理だけど、ハイテク技術の粋を集めたこちらのモデルも悪くないんじゃなかろうか。
「世界最薄」を目指して
ちなみに、機械式の世界最薄ムーブに関しては今年面白い動きがあった。
3月にブルガリが1.8mmの世界最薄の機械式ムーブを開発した。
その僅か4ヶ月後の7月、リシャールミルが1.75mmで「世界最薄」機械式ムーブの称号を掻っ攫った。
腕時計の開発の歴史は「より薄く」「より小さく」を求めてきた歴史だ。
故にその努力の歴史に逆行するようなデカ厚ブームが僕は嫌いだった。
久しぶりに時計シーンを追うようになって、メンズでも38mm以下のモデルが増えていることを知った時は嬉しかった。
腕時計とは、技術の粋を集めた最高の実用工芸品だと思う。
故に、「より小さく」、「より薄く」を求める各メーカーの努力には問答無用で敬意を抱いてしまうのだ。
今回紹介した三つのモデルはいずれもミニマルなフェイスデザイン。
「引き算の美学」とでも言うべきシンプルなフェイスだからこそ、各社の掲げる哲学を何より雄弁に語ってくれるように感じる。