映文計

映画と文房具と時計、好きなものから1文字ずつもらって「映文計」。映画のことを中心に日々綴っていきます。

11/8(火)アトロク秋の推薦図書月間2022⑤ ラランド ニシダさん/『鮨』(岡本 かの子著)

ラランド西田さん、先日のアトロク出演時に太宰治の『畜犬談』を紹介したことで番組内にプチ太宰ブームが。

 

前回のアトロク出演が自分にとっても潮目の変わるきっかけになったと語るニシダさん。

その理由とは?

 

宇垣さん:(番組内でいち早く『畜犬談』を読んで)「これ書いた奴、ヤベェぞ」となりました

 

宇多丸さん:小説でこんなに笑ったの久し振り。それでいて紛れもなく「文学」というところに着地している

 

宇多丸さん:来週、日本近代文学研究者・斎藤 理生(まさお)先生をお招きして「笑える太宰特集」を遂にやることに。

これも全てニシダさんから『畜犬談』を紹介されたからこそ!

 

ニシダさん:おめでとうございます!

 

宇多丸さん:この番組に出たことでニシダさんも流れが変わったとのことですが?

 

ニシダさん:この番組の「ブックライフトーク」に出たことで「コイツ本当に本に詳しいんだ」となり、「木曜日は本曜日」という東京の本屋の協会の仕事を貰い、10冊の選書を出すことに。

honyoubi.com

 

そして池袋のジュンク堂に念願のポップが出たました!

(※『アメトーーク!』の読書芸人放送後、番組に登場した芸人達の勧める書籍の棚が出来ていたにもかかわらず、ニシダさんの棚だけがなかった)

 

宇垣さん:お勧めいただいた本、殆ど読みました。

 

ニシダさん入魂の一冊

鮮烈な文章で描かれる人間関係の無常観。

岡本かの子著『鮨』

宇多丸さん:渋いところ来ましたね

 

ニシダさん:『畜犬談』がハマッたと言うことで古い短編を持ってきました。

 

宇垣さんによる概要紹介:

東京にある寿司屋の看板娘の「ともよ」は50歳過ぎの常連客の一人、湊(みなと)に惹かれる。

ある日お店の外で湊にであったともよは、病院焼け跡の空き地で湊と二人で時を過ごす。

湊に何故寿司を好んで食べるのかと問うともよ。湊は寿司を食べるのは慰めだと幼少期の思い出を語り出す---

 

宇多丸さん:手に取ったキッカケは?

 

ニシダさん:高校・大学の一番本を読んでいた時期に図書館で全集を手にしたのがキッカケ。

人生の中でもトップクラスに好きな作家。岡本太郎の母親。

 

全集の中には息子太朗に宛てた手紙も入っているが、恋人に宛てたような内容でかなり「拗らせてるな」と思えるもの。

 

今回この本を選んだのは「良い読書体験が出来たな」と思える作家だから。

 

歌人というバックボーンもあってか、多少難解なところが筆者の文章の特徴。

短いながらもじっくり向き合うような読書体験が出来る。

 

何が起きる訳でも無いようなミニマルな話。

 

幼少期、拒食症で何も食べられなかった自分に母親が寿司を作ってくれ、それは食べることが出来た。

そんな思い出話をした翌日から、湊は寿司屋に姿を現さなくなる。

ともよは湊を探すでも無く、「他の寿司屋に行ったんだろうな」と思って終わる。

 

大学時代語らった友人と、卒業後はぱったり会わなくなるような人間関係のリアリティを感じる作品。

 

推しの一文

客のなかの湊というのは、五十過ぎぐらいの紳士で、濃い眉がしらから顔へかけて、憂愁の蔭を帯びている。時によっては、もっと老けて見え、場合によっては情熱的な壮年者にも見えるときもあった。けれども鋭い理智から来る一種の諦念といったようなものが、人柄の上に冴えて、苦味のある顔を柔和に磨いていた。

一発読んだだけでは湊の顔は浮かばない。

しかし読み返して、一度本を閉じて人相を想像する。

そのような作家は自分にとっては岡本 かの子以外いない。

この描写だけで、ともよが湊にどこかしら好感を抱いていることが分かる。

ちょっと好き、ちょっと憧れているんだろうな。

 

偶然のように顔を見合して、ただ一通りの好感を寄せる程度で、微笑して呉れるときはともよは父母とは違って、自分をほぐして呉れるなにか暖味のある刺戟のような感じをこの年とった客からうけた。

宇多丸さん:ちょっと踏み込みましたね

 

ニシダさん:何でともよが湊を気になっているかが書かれているが、そこまで詳には明かしていない。

両親はそこまで仲良くないが、お互いのメリットで暮らしていると言うことにともよは気づいている。

湊のシンプルな優しさに惹かれている。

幼いともよは自信に芽生えた感情が何かはわかっていない。

父母からは得られない優しさを感じている。

 

宇多丸さん:「暖味のある刺戟」なんて上手いね。

 

「いやどうも、僕は身体を壊していて、酒はすっかりとめられているのですが、折角せっかくですから、じゃ、まあ、頂きましょうかな」といって、細いがっしりとしている手を、何度も振って、さも敬意を表するように鮮かに盃を受取り、気持ちよく飲んでまた盃を返す。そして徳利を器用に持上げて酌をしてやる。その挙動の間に、いかにも人なつこく他人の好意に対しては、何倍にかして返さなくては気が済まない性分が現れているので、常連の間で、先生は好い人だということになっていた。

ニシダさん:大したことではないが、「奢ってもらう時の態度が良い」ところに惹かれているのが良い。

こういった描写を読んでいるうちに顔と人間像が出来上がっていく。

 

宇多丸さん:医者に止められているのに人がいいから飲んじゃう。それが店に来なかった理由かも、などと考えてしまう。

 

青空文庫

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