映文計

映画と文房具と時計、好きなものから1文字ずつもらって「映文計」。映画のことを中心に日々綴っていきます。

11/24(木)アトロク秋の推薦図書月間2022⑮ TaiTanさん

本日は宇内さんがお休み。宇垣さんが代理パートナーとして出演。

 

TaiTanさんによる入魂の一冊紹介。

TBSラジオ「脳盗」パーソナリティにして"Dos Monos"のメンバー。

 

入魂の一冊

超異常言語感覚

乗代 雄介著『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』

(※何度聴きなおしても「ビッグエブリーのアンダーパーツ」にしか聞こえなくて検索に時間を要した笑)

 

宇多丸さん:これ知ってました、宇垣さん?

 

宇垣さん:初めて知りました。分厚い

 

宇多丸さん:分厚いですし、一見タイトルだけを見ると海外文学のよう。

 

宇垣さん:題名が海外っぽい

 

宇垣さんによる概要紹介

『最高の任務』で第162回芥川賞候補となった現代文学の新星、乗代雄介さんがデビュー前から15年以上にわたって書き継いできたブログを著者自選・全面改稿のうえ書籍化したもの。

大凡600編に及ぶ掌編創作から67編を精選した『創作』、芸術と文学をめぐる思索の旅路を行く長編エッセイ『ワインディング・ノート』に書き下ろし小説『虫麻呂(むしまろ)雑記』を併せた内容となっています。

 

宇多丸さん:2020年の本なんですね。手に取ったキッカケは?

 

TaiTanさん:今は亡き六本木ブックファーストでたまたま目が合った。余りも分厚いから、面出しでも他の本と比べて突出していた。

 

宇多丸さん:物理的にも突出していたと

 

TaiTan さん:開いて読んでみたらその中の一遍があまりにも面白すぎて、本屋で笑ってしまった。そんな経験は今まで無かった。

そのままの勢いで「これは俺が読まなきゃ行けない本だ」と思い購入。電車の中でもずっと読んでいた。

 

宇多丸さん:ブログで書籍化前から読んでいたとかじゃなく運命的にビビッときて、と言う感じなんだ

 

TaiTan さん:完全に運命的に出会いました。

正直乗代さんのこともそれまで存じ上げていませんでした。本当に何の前提知識もなく出会った。

 

宇多丸さん:本屋で声を上げて笑っちゃうってなかなかだね。この本のポイントは?

 

TaiTan さん:大体600ページに及ぶ本で3部構成になっている。

1部が乗代さんが学生時代からずっと書いてきたブログの抜粋。

中編が彼の創作論みたいなエッセイ。

最後が書き下ろし小説。

 

僕が衝撃を受けたのはブログ。

 

宇多丸さん:所謂ショートショート的な?

 

TaiTan さん:まさしく。見開き2ページで終わるくらいの短編だったり。それが全部面白い。

電車の中でもずっと笑いを堪えるのに必死で、これ以上はどうにかなってしまうと本を閉じたくらいだった。

 

小説で笑うまで行くのはかなり稀。それをいとも簡単に、しかも何回も連続して

 

宇多丸さん:それが何編も入ってるんですもんね。そんな波状攻撃、全部一度に摂取したら危険!

 

推しの一文

「マウンド上、俺様宛」より

「シチュエーションとしては9回裏ノーアウト満塁。バッターは四番ピッチャー俺」から始まる文章。かなり追い込まれている状況でピッチャーの心情風景を切り取っただけ。

ピッチャーはピンチにある自分を諫める。

「俺は練習してきたたし、何より英検3級も持ってる」みたいな自分の自信の裏付けとなるものがショボすぎるところに引っかかってきて、結局最後はホームランを打たれて終わってしまう、と言うだけの話。

これをたまたま開いて読んだ時に「何ちゅう言語感覚なんだよ」と思った。

この文章に出会って、確かに僕らが見ている野球中継のピッチャーも意外としょうもないことを考えているのかも知れないと想像させる力が凄い。

 

宇多丸さん:ここ一番の時にしょうもないこと考えている時あるもんね。ライブ中だってそりゃあるよね。

 

TaiTan さん:ありますよね!「今屁こいたら最前の奴にはバレるかな」みたいな。

そんな内容が「面白いでしょ?」というような筆致ではなく書かれているところに惹かれた。

 

宇多丸さん:凄いね。どこを目指して書かれたものなんだろう

 

TaiTan さん:「誰に見せるでも無く書いてきた」ブログがまとめられている。

純粋芸術と言っては大それているけどだけど、推せるポイント。

 

宇多丸さん:曰く言いがたい所をこそ狙って書いている人なのかなと思いました

 

TaiTan さん:今までの紹介は笑えるポイント。他にどうしても紹介したいところがある。

中編の部分の彼の創作のエッセーに出て来る一文。

乗代さんの大学時代の指導教官だった法政大学の田中優子先生、今は総長となられている方が、乗代さんのレポートなどの提出物を見て余りの文章力に異例のメール返信をした際の文面が引用されている。

「あなたの才能に正直惚れている。こんなメールを書くことは今まで一度だってなかった」なんだけど、「私は褒めても意味が無くて、褒めた結果あなたが文章で食べられると思ってしまうことを恐れています」みたいなことをずっと書かれている文面が紹介されていて、そこも感動的。

 

宇垣さん:ある種茨の道ですもんね。

文章で食べられると思わせてしまうことは

 

TaiTan さん:そのような教授との交流を書いている。その様子も「べちゃっ」とした感じ(ウェットな書き味、の意?)ではなく、むしろそれに対して反発する心を書いていて、「この人の創作に対する解像度、異常だな」と思わせられた。

 

前半部分であんなにケラケラ笑わせてくれながら、こんな深度で物事を考えているんだ、と思わせられた。

 

宇多丸さん:こういう文章を書く人はおのれを隠すことでスタンスを保つ人が多い中、後半では中身を見せるというのは珍しいスタンスですね。

 

メールを引用した直後の文章で「こんな私的なメールを匿名で公開することは恥知らずで恩知らずで畜生がやることだ」と書いているのは太宰感

 

宇垣さん:あります!

 

宇多丸さん:メッチャ笑えるところと、自分を開示するところが太宰にはある

 

TaiTan さん:その両面が一冊に納まっているのは奇跡的なバランス感覚

 

宇垣さん:毎回ピンチになる度に「英検三級を持っている」のくだりを思い出しそう

 

宇多丸さん:私の「駿台模試実質2位」に通じるものがあるかも

 

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