映文計

映画と文房具と時計、好きなものから1文字ずつもらって「映文計」。映画のことを中心に日々綴っていきます。

11/30(水)アトロク秋の推薦図書月間2022⑳ 日比 麻音子さん

日比さんによる入魂の一冊

 

ブレイディ みかこ著『両手にトカレフ

 

宇多丸さん:ブレイディみかこさん。番組にもお越しいただきましたけど

 

日比さん:新刊が出るたびにお越しいただいてイギリスのリアルなところをいろいろ教えていただいているブレイディみかこさん。今回小説は初めてということで

 

宇多丸さん:今まではエッセイでしたもんね

 

日比さん:注目をされていた長編小説ということで、私もすごく楽しみにしていて、TSUTAYAでサイン入りのものを購入

 

宇多丸:あぁ!そうなんだ!

 

日比さんによる概要紹介

イギリスに住んでいる14歳のミア。この子はですね、あのお母さんがちょっとドラッグだったりお酒とかに依存していて、なかなかお家が貧困な状況の中で、生きているというミアさん。

短くなった制服のスカートを穿き、図書館の前に立っていた。そこで出合ったのは、カネコフミコという日本の方の自伝でした。フミコは「別の世界」を見ることができる稀有な人だったといいます。本を夢中で読み進めるために、イギリスに住んでいるミアは同級生の誰よりもフミコが近くに感じられた。一方、学校では自分の重い現実を誰にも話してはいけないと思っていた。けれど、同級生のウィルにラップのリリックを書いてほしいと頼まれたことで、彼女の「世界」は少しずつ変わり始める――。

 

宇多丸さん:ラップが出てくるんですね

 

日比さん:そうなんですよ。このラップが非常に重要なんですけども。

このイギリスに住むミアには弟もいるが、お母さんがほとんど面倒を見られないような状態でほぼヤングケアラーのような状態。

たまたま図書館にいた怪しいおじさんに「これを読んでごらん」と勧められたのが日本に住んでいた女性の100年ほど前の自伝

 

宇多丸さん:カネコフミコさん。実在の方ですね

 

日比さん:はい。実在していた方なんですが、日本とイギリス、時代も場所も離れた二人が苦しい状況の中で生きなければいけない、子供として生き抜かなければいけないところが不思議とリンクしていく。

ミアは周りの子供だけではなく大人にも心を開けないが、フミコがなんとか生きようとしていく姿に共感していく。胸の奥を締め付けられるような言葉がたくさんある。

 

宇多丸さん:現実を前に全く違う時代全く違う国の女性が書いたものがドアを開いていく。すごくいい話だよね。

 

日比さん:奇跡のような遠くて近い存在をミアは見つけることができた。

 

推しの一文

フミコの自伝とミアの話が交互に出てくる。フミコの自伝の中の一部分。

「フミコは遠い場所に住んでいる祖母に幼女として引き取られるが、そこでも貧困を意背景とした苦しい生活を強いられる。

「何もしていない時でさえビクビク怯え、祖母に叱られないために生きていた。祖母は私から「私」を取り上げたのである。子供であるという牢獄。私はその中を生きていた。」

 

(こういった部分を読んだミアのシーン」

「子供であるという牢獄。それは自分たちのような子供にあるとミアは思った。ソーシャルに連れていかれないよう、いつもビクビクして暮らさなければならない。そしてもし保護されてしまったら、どこの町の施設や里親に預けられるかわからない。兄弟姉妹だって引き離される。」

 

日比さん:このように現実がしっかり描かれているのは、イギリスのリアルを知るブレイディサンだからこそ。イギリスのいい面・悪い面(悪いとは捉えられないけど)を知っているからこそ小説としてリアルに切実に描ける。小説ではあるがドキュメンタリーのように感じた。

 

そんな中でミアがリアルな言葉を紡ぐことができる、唯一言葉を解放して信じられるのがラップのリリックである、という。

 

宇多丸さん:「本」という過去のものが彼女に「自分は一人じゃない」と世界に対する目を開く窓になり、そこから自分の言葉を発する手段としてラップのリリックがある。まさに文学や表現の根源に迫る話ですよね。

 

日比さん:リリックを書くことで自分を肯定し、誰かに聞いてもらって「いいね」「格好いいね」と言ってもらえることで、こんなにも救いのない、誰も助けてくれない中でもリリックがあれば生きていける。ラップがあれば信じられるというミアの姿が格好良くて切実で。

ブレイディさんも前回出演時、実際にラップをしている子がいると教えてくれた。そう言った彼ら彼女らの姿がミアにリアルに描写されている。すごく考えさせれる一冊。

 

宇多丸さん:同時にブレイディさんの過去のエッセイのように、ある種爽やかな青春小説みたいな読み口でもある?

 

日比さん:そうですね。10代の子どもらしいシーンもありながら、苦しい中で生きる中で希望を見出すシーンもある。

 

※2019年に宇垣さんが『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を紹介していた。

 

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