映文計

映画と文房具と時計、好きなものから1文字ずつもらって「映文計」。映画のことを中心に日々綴っていきます。

ハイ・ファンタジーのロー・ファンタジー化

「なろう系」という作品カテゴリがあることはよく知られていると思う。

 

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小説投稿サイト「小説家になろう」に寄稿される作品の内、特に「異世界転生モノ」に類型される作品群(の一部)を指すことが多い言葉であると理解している。

 

トールキンの影響下にあると思われるモンスターやクリーチャーの種族が登場するケースが多いこと、戦士や僧侶などといったダンジョンズ&ドラゴンズの影響下にあると思われる役割を持った登場人物がパーティを組むことが多いのも特徴として挙げられるだろう。

 

西洋風の街並みに西洋風の自然描写、西洋風の登場人物名を有する作品が多いことから、その“剣と魔法”の作品舞台を指して「なろう系+ヨーロッパ」の略称「ナーロッパ」と呼ぶこともあるらしいことも知った。

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「なろう系」、「ナーロッパ」という言葉はある種の侮蔑的なニュアンスを含むことが多々あり、誰かにこの言葉を発する際は注意が必要だと思う。

 

僕は「小説家になろう」というサイトを見たことは無いし、同サイトから生まれた作品に明るくないので、上の定義が誤っていたら申し訳ない。

 

僕が何故「ナーロッパ」という言葉が侮蔑的なニュアンスを含むと感じたかと言えば、インターネット上で「なろう系の作者は、作品舞台を一から作ることが出来ない」という文脈で語られているのを見たからだ。

 

「なろう系」作品の多くに、戦士や僧侶などの多様なスキルを持つ冒険者が徒党を組んでパーティを結成することが多いのは上に述べたとおりだが、それら冒険者一行に「クエスト」を提供する「ギルド」に該当する組織が存在するケースも多い。

これらは言うまでもなくビデオゲームにおいてよく見られる要素であり、「なろう系」作品の作者が「ナーロッパ」を舞台にするケースが多いのは、読者の多くが想起しやすい設定を借用することで作品世界を構築するコストを最小化する目的によるものだというのは想像に難くない。

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僕はスタジオジブリ作品の大ファンだが、スタジオジブリ作品、特に宮崎駿監督のファンタジー作品を観ていて彼が何よりも傑出していると感じる点は、「開始10分足らずでその世界の生活様式や科学技術の程度を過不足無く視聴者に伝える能力」だ。

 

しかも、「俺は何処其処の誰某。何の変哲もない普通の高校生だ」というような説明セリフから始まるわけでもない。

視聴者は冒頭のシーンを観ただけで誰がその作品の主人公で、どんな能力を持っていて、時にはどんな行動原理で動く人物なのかと言うことすら把握できてしまう。

(『風の谷のナウシカ』は火の七日間による巨大産業文明の崩壊というあらましが文章で述べられているが、腐海と共に生きるあの時代の人々の生活様式や産業水準は、ユパ様救出シーンと、ユパ様の風の谷到着までのカットの切り替わりで理解できるようにできている)

 

そのような圧倒的スキルを目の当たりにすると、何処かで見たようなヨーロッパ風の土地で、どこかのゲームで見知った組織に属する主人公一行〜という作品に上記のような批判的意見が集まるのも宜なるかなという気もする。

 

近年出会った漫画の中で特にお気に入りのなのが『龍とカメレオン』。

 

この作品の4巻20ページに主人公と主人公の師匠が「ハイ・ファンタジー」と「ロー・ファンタジー」について語り合うシーンがある。

(このシーンでは主人公がどんなアシスタントと一緒にマンガを描いていきたいかということを話し合っているので、主語は「アシスタント」である)

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世界を丸ごと創造する【ハイファンタジー】

必要なのは作者の設定への理解とその余地を埋める想像力


現代を舞台に“漫画的嘘(ファンタジー)”を展開する【ローファンタジー】

必要なのは“リアルな描写”

実際の物の大きさ・比率を正しく描く正確性


「ナーロッパ」は本来ハイ・ファンタジーに属する舞台装置であるはずなのだが、ビデオゲームで誰もが触れたことのある設定を借用することで「世界を丸ごと創造する」というコストを最小化している。


現代という世界が読者にとって説明不要な舞台であることは言うまでもないが、本来であれば「ハイ・ファンタジー」に当たる“剣と魔法”の世界も、今や人口に膾炙しすぎたことで(世界観構築のコストという面で)「ロー・ファンタジー」化しているということができるのではないだろうか。

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