映文計

映画と文房具と時計、好きなものから1文字ずつもらって「映文計」。映画のことを中心に日々綴っていきます。

コンテンツにお金を払うということ〜問わず語りの神田伯山〜

TBSラジオヘビーリスナーの僕です。

落語を聞きたくて聞き始めた「渋谷らくご」のPodcastで出会ったのが当時二つ目の神田松之丞。2020年、異例の大抜擢で真打に昇進し今や六代神田伯山として知られる講談師だ。

 

先月冠番組の『伯山カレンの反省だ!!』が終わってしまったことで悲しんだ人もいたかと思うが、『人志松本のすべらない話』をはじめ正月の新春お笑い特番などテレビメディアへの登場もあって、古典芸能への興味がない人にとってもかなり知られた存在になってきた今日このごろ。

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都内を離れて渋谷ユーロライブに渋谷らくごを聞きに行くことも難しくなった僕は専らラジオで神田伯山の名調子を味わっているが、このラジオがまた面白い。

一端のラジオ好きならタイトルを聴いたことがない人はいないであろうくらいには有名なこの『問わず語りの神田伯山』という番組。

毎回面白いけど、今回は単純に「面白い」とは違う、コンテンツに対する向き合い方にすごく共感できる回だったので紹介したい。

 

radiko(2021/04/23まで)

問わず語りの神田伯山 | TBSラジオ | 2021/04/16/金 21:30-22:00 

radiko.jp

 

靴職人花田優一さんから寄せられた手紙の紹介、宿敵(?)フォーリンラブ・バービーさんの結婚についてのお話があって、先日発売された弘中アナの著書が送られてきたと言うことで、その冒頭部分を紹介する伯山先生。

「「急に文章が書きたくなった。いや、書かなければ私の中の何かが壊れる、という衝動に突き動かされてる。なぜなら、本当の私が、この世からなくなりそうだから」……(間をたっぷりとって)マズいねこれちょっと笑」「(笑い屋シゲフジ)アハハハハwww」といういつもの調子にニヤニヤしてしまう。

 

そして後半にはリスナーからのメールで「退職してリタイアした自分には趣味がない。

伯山先生の趣味はなにかありますか」という投稿に対して落語を勧める伯山先生。

 

これが僕が最も共感した部分。

「志の輔師匠の落語を五席ほど聞くのがいいでしょう。

この時大事なのはYouTubeなどで無料で聴かないようすること。

権利の関係もあるけど、無料でアクセスできるものというのはつまらなくなります。

CDを買うのが一番大事。でもお金がないという人は図書館に行ってみてください。

図書館は驚くほど落語が充実していますので。

都内の図書館でも一度に借りられる枚数が違う。三枚しか借りられない図書館に充実のラインナップを誇っていたり、十枚も借りられる図書館に同じ落語家のCDしか置いていなかったりする」

 

オタクがよくTLで「推したいのに公式グッズが売ってないからお金落とすことができない」などと呟いているのを目にするので、オタクであればあるほど「コンテンツにお金を落とす」ということがいかに大事なのかわかるのではないだろうか。

ただ、ファンになる前から何かにお金を落とすのは勇気のいることだというのも自分としてはわかることだったりする。

しかし僕は「好きになる可能性のあるものには入り口の時点で正当な対価を払っていないとその物を大事にできなくなる」という特性が自分に備わっているということをよく知っている。

 

僕は小学生くらいの頃からブックオフに行くのが好きだった。

しかし、絶版本ならいざ知らず、刊行が継続されている本をブックオフで買っても、その本と新品として購入した本とでは、明らかに自分の中で大事にしようという気持ちに差があることに気づいた。

 

図書館の蔵書整理で「吉川英治文学集」を大量に手に入れても、自分の財布をからお金を出して入手したわけでもないそれらの本は全然読む気が起きなかったり、古本屋で全巻セットを購入した作品が封も切られないまま本棚の肥やしになっていたり……やっぱり、新品で買った本とそれ以外の手段で入手した本とではどうしても自分の中で区別をしてしまう。

 

それなりにお金を払って入手したものは「元をとってやろう」という意識が働いて前のめりにそのコンテンツを摂取するのだと思う。

故に今回のラジオ放送で「CDを買いましょう」と先に言い、「それでもお金がないよ、という人は図書館に行きましょう」と勧めているんだろう。

お金を払わずとも「図書館に行く」という一つの苦労をワンクッション挟むことで、落語を聴くという趣味に一歩のめり込みやすい下地を作る。

 

僕はこの考えに大いに共感できるので、最後に講談のCDをおすすめしてエントリの〆としたい。

 

真打に昇進して神田伯山の名跡を継ぐ前、二つ目の神田松之丞時代に出ているこのCD。

「シブラク名演集」が特に面白く、聞きやすいのでおすすめ。

本人もオーディオコメンタリで「講談入門に最適の一枚」と言っているしね。

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特に「赤穂義士伝 荒川十太夫」は出色の出来。このCDの白眉とも言える一席。

芸に入る前のフリートークである「まくら」と「講談」の芸の温度差、そしてまくらの馬鹿話が嘘のように最後には感動を味わされてしまう、食らわされてしまう話芸の巧みさにノックアウトされること請け合い。

 

今までの「趣味に前のめりになるためにはコンテンツにお金落としてなんぼ」という主張から大きくズレるので小声で紹介するけど、実は僕のおすすめの白い方のCD「シブラク名演集」はSpotifyでも聴けるので、CD購入前に試し聴きしたい場合は是非。

 

 

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