映文計

映画と文房具と時計、好きなものから1文字ずつもらって「映文計」。映画のことを中心に日々綴っていきます。

跳躍〜富野由悠季監督と映画“1917”〜

いつか記事にしようと思いつつもエントリを上げていなかったことがある。

 

昨年の8月24日。

福岡県福岡市美術館にて開催されていた「富野由悠季の世界」という展覧会に行ってきた。

実はこの日、富野由悠季監督が来館され、劇場版『Gのレコンギスタ Ⅰ』「行け!コア・ファイター」の舞台挨拶付き先行上映が開催されたからだ。

 

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そこで語られた内容が非常に面白かったのでいつか書きたかったのだが……

気がつけば半年が過ぎていたと言う体たらく。

速記でメモを取ったのに、もうあのメモはどこにいったのやら……

 

さて、そんなわけで半年以上が経過し、その舞台挨拶で監督御自らが語られた内容も若干忘れて暮らしていた僕だったが、先ほどtwitterのタイムラインでタイトルに入れた映画作品“1917”/『1917 命をかけた伝令』についての話題を目にして急に富野監督の言葉が脳裏に蘇った。

 

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話題作の“1917”は当然僕も既に観にいった。

「全編ワンカット」を謳い文句に、第一次世界大戦においてドイツ軍の罠に今まさにはまらんとする1600名のイギリス軍部隊を救うべく伝令役に抜擢された二人を主人公に据えたスペクタクルムービーだ。

この「全編ワンカット」(風)という撮影スタイルが評価され、2020年の第92回アカデミー賞において視覚効果賞撮影賞(ロジャー・ディーキンス)、そして録音賞を受賞して三冠に輝いたことも記憶に新しい。

 

しかしショートフィルムならいざ知らず、約2時間のサイズの映画を全編ワンシーンワンカットで撮影することなど到底困難であり、公式サイトにおいても「約2か月の撮影期間を経て【全編を通してワンカットに見える映像】を創り上げた。」と明示されているとおり、いくつかのシーンで「あ、ここを編集で繋いだな」と思うところがあった。

1917-movie.jp

 

とはいえ、2時間に及ぶ映画作品をワンカットに見えるように撮ると言う取り組みそのものが極めて実験的であり、「実際にワンカット撮影でないこと」がこの作品の価値を毀損することにはならないと僕は断言したい。

 

さて、僕が目にした本作に関する話題というのが、「“1917”の登場により、今後ワンシーン・ワンカット風の映画や、ワンシーンあたりのカットが長くなる映画が増えるだろう」という意見だった。

 

 

僕は4DXやMX4Dといった上映形式が苦手である。それは4Dという装置が提供してくれる振動などのギミックが、画面に映る客体と主体のどこにフォーカスしたものなのか分からない、即ち、画面内で生じた振動が一人称の視点の存在が感じている振動なのか、二人称視点の存在が感じている振動なのか、混乱が生じてしまうことがその理由だ。

以前、FC2ブログ時代に僕は“Pacific Rim”を4DXで鑑賞した際、苦手だった4DXという上映形式が好きになったし、4DXで鑑賞したことで初見時よりも“Pacific Rim”という作品が面白く感じたと書いた。

eibunkeicinemafreak.blog.fc2.com

 

この「スクリーン」という作品世界を見通す「窓」について、僕が革新的だと感じたのは、“Hardcore Henry”/『ハードコア・ヘンリー』だ。

この作品は全編を通じて主人公の一人称視点で撮影されている。

 

FPSゲームを普段からプレーしている人にとっては何ということはない作品なのかもしれないが、普段全くゲームをしない僕からすると全編一人称視点で物語が進行していくのは非常に脳に混乱をきたし、終盤ではかなり酔ってしまった。

タイトル通り「ハードコア」な描写も多く、いろいろな意味で気分が悪くなった作品。

前任地の名古屋に来て初めて見にいった映画ということでも記憶に残っているが、それはまた別の話。

実験的な作品ではあったものの、作品そのものの持つメッセージ性などは弱く、正直なところ作品としての評価は僕の中でそれほど高くない。

(※実はモノクロ映画の時代から一人称視点で撮られた映画作品は存在おり、『湖中の女』はその最も古い例として知られている。が、僕が初めて観た全編一人称視点で撮られた映画が“Hardcore Henry”なのでその辺りは気にしないでいただきたい)

 

映画は誕生以来音が入ったり総天然色になったり3Dになったりと色々と進化を果たしてきたが、「全編ワンシーンワンカット(風)」という謳い文句の“1917”は、“Hardcore Henry”の「全編一人称視点」と同様、実験的な要素を除けば取るに足らない作品に思えてしまうのではないかという危惧もあった。

しかし、実際に鑑賞してみた本作は「全編ワンシーンワンカット(風)」という手段が目的化しておらず、作品としての出来の面でもかなり僕は好きだった。

 

 

ここからやっと富野由悠季監督と“1917”を絡めて語りたいのだが、若干“1917”に関するネタバレがあるので、情報を何も脳内に入れたくないという方はこの辺りで切り上げていただくことをお勧めする※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よし。

もう大丈夫だろうか。

 

人によっては「全くネタバレじゃないじゃん」と思うかもしれないが、万全を期したい。

 

 

「全編ワンシーンワンカット」を謳う本作だが、実は「主人公の気絶」という反則スレスレの技を使って時間を半日近くすっ飛ばすシーンが終盤にある

 

この時間的跳躍こそ、僕が語りたかった部分なのだ。

福岡市美術館での舞台挨拶で、富野監督はTVサイズのGレコを劇場版に再編集するにあたり、「映画とは何か」ということに関してご自分の考えを語っていらした。

アニメーション作品の監督を数多く務めていらした御大だが、映画文化に非常に明るい人物としても知られている。

(当日、「最も面白い日本映画は『七人の侍』と語ってた。名作中の名作だが、富野由悠季御大ファンで未視聴の方がいればこの機会に是非)

 

そんな御大が映画(「“映画的”なるもの」という言い換えをするシーンもあったと記憶している)を映画たらしめている最も重要な要素として、「編集によって時間的・空間的に跳躍できること」を挙げていた。

 

“1917”は「主人公の気絶」というギミックを入れることで半日近く時間をすっ飛ばしたと書いたが、これこそまさに富野監督のいう「時間的跳躍」であると言える。

 

また、気絶から目覚めた主人公スコフィールドが再び伝令を運ばんがために走り出したのち、敵と遭遇して激流に飲み込まれて流されるシーンがある。

この川に流されたことによる場所の移動こそ「空間的跳躍」そのものであると言えるだろう。

 

正直なところ、スコフィールドが気絶するまでの前半部分は時間的にも空間的にも凄くミニマムな範囲でしか物語が動いていなかった。おそらく空間的には出発地から2.5km程度しか移動していなかっただろうし、劇中で進行した時間も60分程度だっただろう。

しかし、スコフィールドが気絶して覚醒するシーン以降、物語は加速していく。

 

全編ワンシンーンワンカット“風”ではなく、本当にワンシーンワンカットで撮影をしたら、その作品は非常にミニマムな作品に終始してしまうことが予想される。

僕の大好きな作品の一つにロマン・ポランスキー監督作の“Carnage”/『おとなのけんか』という密室劇がある。オープニングとエンディングシーンを除けば全てが密室で描かれた作品で、出来も素晴らしい。

「密室劇」というようなジャンル映画では「時間的・空間的跳躍」を伴わない映画でも名作を生み出すことはできるだろうが、ブロックマスタームービーでそれを実現するのは困難ではないだろうか。

 

“1917”における「主人公の気絶」と「川で流される主人公」というギミックは、この事実に自覚的であることの何よりの証左であるように思えてならず、「富野監督の言っていたことは本当だったんだ」と思った次第だ。

 

なお、余談だが僕が“1917”を鑑賞したその日、“1917”が終わった15分後に鑑賞した作品が 劇場版『Gのレコンギスタ Ⅱ』「ベルリ撃進」だった。

 

なんとも不思議な縁があるものだ。

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撮影機材の小型化、高性能化が進んだことにより、ワンカットで撮れるシーンの幅が広がったことは確かだ。

しかし、今後の潮流が「ワンシーン、ワンカットをより長く撮影すること」に傾いていくことになるかは分からない。

 

富野監督は台詞回しが独特で、ファンからは「富野節」という言葉も生まれるほどだ。

また、たとえ主要キャラであっても登場人物を容赦無く死なせることから、「殺しの富野」という呼び名もある。

しかし真に富野監督を他の監督と隔てている彼の特異な能力は「編集」の巧みさに他ならない。

「ファースト」と呼ばれる初代『機動戦士ガンダム』の劇場版3部作は、全43話のTV版を編集してまとめ直したとは到底思えないほど上手く再構築されている。

この「編集」というプロセスにより「時間的・空間的跳躍」の妙が生み出され、劇場版3部作を名作たらしめているのだと僕は信じて疑わない。

 

機材の進歩でワンカットで長く撮影することが容易になた現代だからこそ、ワンカット辺りの時間を長くするのか短くするのかを適切に判断する編集の手腕が問われるのではないだろうか。

富野チルドレンの僕はそう思わずにいられない。

 

 

 

さて、そんなわけで今回紹介した 劇場版『Gのレコンギスタ Ⅱ』「ベルリ撃進」は3/5(木)までの2週間限定イベント上映!

土日休みの人が観に行くなら今週末がチャンス!!

 

とはいえ、3/6(金)から上映館が順次追加されるので、あまり焦らずに。

詳しくはこちらのURLまで。

www.g-reco.net

 

話、わかりたければ見るしかないでしょ!

 

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