入魂の一冊
令和の鬼平犯科帳。石田衣良は現代の池波正太郎である。
石田衣良『ペットショップ無惨 池袋ウエストゲートパーク18』
宇多丸さん:『池袋ウエストゲートパーク』。あの映画にもなった?
エイティーンなんだ!
ササダンゴさん:第十八巻です
宇多丸さん:そんな出てんだ!
クマスによる概要紹介
1997年に連載スタートしたミステリシリーズ。池袋西口公園近くの果物屋の息子で「池袋のトラブルシューター」こと真島誠が事件を解決していく。
2000年には長瀬智也さん主演、窪塚洋介等の共演でドラマ化して大ヒット。アニメ化、ミュージカル化もされてきた。
ペットビジネスの闇に斬り込む表題作を含む4エピソードを収録。
宇多丸さん:ドラマ版の印象が強いんだけど、元のシリーズがこんなに続いているなんて!
ササダンゴさん:手に取ったキッカケは去年本屋さんで池波正太郎作品の文庫を探していたところ、同じ「イ」のエリアに石田衣良作品が並んでいたから。
97年、上京の年に一巻が出ていて、ドラマ化前に小説も読んでいた。
池袋のカラーギャング、援助交際などの現実が上手く小説に組み込まれていた。
新潟への帰省の折に東京駅で単行本を見付ける度に買っていた。
小説が売れていた時代で、よく平積みされていた。
帰省先で地元の友人に「東京ってこうなんだぜ」、「カラーギャングがな……」とまるで直に見てきたように話していた。
それがまさか今も年一で新刊が発売されているとは気付いていなかった。
アニメ版、舞台版はドラマ版が下敷きになっていて、その物語が今も続いているとは知らなかった。
2010年に一度連載を終え、それまで登場人物は現実の時間経過に合わせて歳を取ってアラサーになっていた。
2014年にシーズン2的な形で復活した際には彼らの歳は20代後半に再設定。
そこからは7〜8年歳を取っていない。
宇多丸さん:石田さんも割り切った!
ササダンゴさん:そこからはネバーエンディング・ストーリーになっていってる。
去年手に取ったのは2021年に発売された『炎上フェニックス』。
印象的だったのは2020年に「オール讀物」で年四ペースで連載されていた作品なので、物語の舞台である池袋がコロナ禍に見舞われている。
「実家の果物屋が例年の4割になった」というモノローグから始まるが、母親はNetflixで韓国ドラマを観て楽しく過ごしているらしい。
商店街のおばちゃんの仲間同士では韓国ドラマの話題で持ちきりだ、みたいな。
宇多丸さん:『愛の不時着』とかがはやってた時期ですかね?
ササダンゴさん:誠が『呪術廻戦』に例えたりする。
ササダンゴさん:『炎上フェニックス』収録の一本目は工業高校の先輩がパパ活でトラブルに巻き込まれる話。
そのパパ活サイトの運営するホストクラブの背後には巨大な半グレ組織「東日本連合」。
20年前には存在しないような組織。
社会問題、社会的課題をムリに解決しようとはせず、登場人物の半径5mくらいの知り合いは超法規的に救いの手を差し伸べる。
また、当時そこまで話題になっていたか微妙だが「ぶつかり男」を描いていたり、Uber EATSのドライバーが自転車に落書きされたことで始まる話が収録されていたり。
女性アナの炎上・ストーカー被害などをコロナ禍の池袋を舞台に描く。
コロナ禍に入ったばかりの時期にこの様な描写の作品を書いていたというのは実は貴重では?
宇多丸さん:フットワーク軽い。記録にもなるし良いですね。
ササダンゴさん:『ペットショップ無惨』ではマッチングアプリを使った美人局詐欺をする兄弟を描いたストーリーや、おばあちゃんの世話をする「ヤングケアラー」の女子高生を描いた話など。
主人公はトラブルに巻き込まれた人を助けることは出来る。
かつて登場していた幼馴染みのヤクザ者は時勢柄出て来られない。
超法規的にトラブルを解決するが、社会的問題の根本原因は解決できない。
主人公は誠やキングたちといったお馴染みのキャラだが、依頼人が魅力的。
誰もがどこか欠けた部分を持っている。誠たちはその欠けた部分を探し当てていくまでが物語になっていて感情移入しやすい。
【前回】