ストリートカルチャーと古本をこよなく愛する野良読書家集団、リバーサイドリーディングクラブikmさん、片桐さんによる書籍紹介。
宇多丸さん:昨日出演した森崎ウィンさんが「リバーサイドリーディングクラブ?!」、「何なんですかその集団は!」、「野良読書家集団?!」ってメッチャ食いついてましたよ
宇内さんによるリバーサイドリーディングクラブさんの紹介:
通称RRC。ヒップホップ、ハードコアパンクとと古本好きを中心に結成された自称・野良読書家集団。
リーダーのikmさんが川沿いで本を読むことが好きだったことでこの名前に。
朝日新聞の「好書好日」というコーナーで“BOOK GIVES YOU CHOICES”を連載中。
宇多丸さん:お土産で貰ったキーホルダーにもこの言葉が書かれていますね
RRC:僕の好きな『酔いどれに悪人なし』という本に出て来る一説。
息子が父に「何故本を読むのか」と訊ねたところ、父は「選択肢を与えてくれるから」と答える。
更に息子が「“選択肢”って何?」と訊ねると父が「自由だよボウズ」と返すシーンがある。
宇内さん:かっこいい!
RRC:ここが滅茶苦茶好きでキャッチフレーズに使っている
RRCのお二人による入魂の一冊
西武池袋線の、中村橋駅の2LDK。茶トラの子猫、週末のの競馬、何となく居着いた友人たち。ネガティブもその予感もない。「このまま続けば良いな」と思える日常。それのみで書かれた「パワーアンビエント小説」。
保坂和志著『プレーンソング』
宇多丸さん:今まではRRCは日本の本でもノンフィクションなどを紹介いただくことが多かったけど、日本の小説は初めてでは?
RRCさん:今までは海外翻訳小説しか読んでいなかったが、ちょうど去年アトロクに出た後に保坂和志の『残響』を読んだら滅茶苦茶凄かった。
2〜3カ月考え続けてしまうほどだった。
それ以来、日本の小説も読むようになった
宇多丸さん:RRCが敢えて進める『プレーンソング』、どんな本なんでしょうか
宇内さんによる概要紹介
ネコと競馬とゆったり流れる時間。
四人の若者の奇妙な共同生活を、独自の文体で書き上げた小説家・保坂和志さんのデビュー作。
公式の説明文は次の通り。
「うっかり動作を中断してしまったその瞬間の子猫の頭のカラッポがそのまま顔と何よりも真ん丸の瞳にあらわれてしまい、世界もつられてうっかり時間の流れるのを忘れてしまったようになる…。(宇内さん:ふしぎな文章ですよね)猫と競馬と、四人の若者のゆっくりと過ぎる奇妙な共同生活。冬の終わりから初夏、そして真夏の、海へ行く日まで。」
作者は1995年『この人の閾』で芥川賞を受賞。
RRCさん:メンバーの一人マーシー君が「最近読んで一番食らった本」として紹介。
ネコ小説。保坂さんはネコがお好きで、『残響』を読んだあと『残響』が凄すぎたけど、ネコなんだよなぁ……と思っていた。
お勧めしてくれたメンバーに「保坂さんってネコでしょ?」と言ったら、「ネコだけど、ラストが凄い。オチは犬だから、保坂さんの作品を読むことは犬への裏切りでは無い」と言われて読み始めた。
宇多丸さん:毎年その言い訳をしなければいけない笑
RRCさん:作中、人間と犬とネコの関係がしっかり描かれている作品
宇多丸さん:「パワーアンビエント」っていっていたけど、起伏が無い感じの作品?
RRCさん:保坂さんが飼っているネコが感染症にかかり、その悲しい気持を一掃するために「不安や不幸の予感の欠片すらない小説を」と書かれた本。
日常のことしか書かれていない。が、「フロウ」は特殊で……
宇多丸さん:「フロウ」というのはラップなどに用いられる言葉ですが、「文体」のようなものだと思ってください
RRCさん:物語ならドラマやアクシデントなどを入れたいものだが、それを描かずに作品を作り上げている点にパワーだと解釈している。
それでいてアンビエントミュージックのように物語は流れていく。
作者は「日常に意味を見いださなければ、戦争を待望するような人間になってしまう」という旨の発言をしている。
日常に意味を見いだすために小説を書いているのではないか。
小説は過去形で書かれるアートフォームだが、日常を振り返って「あの時こんなことがあった」と書いていくのは日常に意味を見いだしていく行為。
そういう風に書かれた小説を読むと「日常ってやっぱり良いよな」と思える。
宇多丸さん:劇的であること、大きな話、「物語」を求めることは歴史、国家のストーリー、大きな「物語」の方が日々の暮らしよりも偉いのだ、となり兼ねないもんね。
さっきの説明同様、中身も不思議な感じなんですか?
RRCさん:本当に起伏がない。設定がなくてそこに日常がある、と言う感じ。
推しの一節
そんなんじゃなくて、本当に自分がいるところをそのまま撮ってね。そうして、全然ね、映画とか、小説とか分かりやすくてっいうか、だからドラマチックにしちゃっているような話と、全然違う話の中で生きてるっていうか、生きてるっていうのも大袈裟だから、「いる」っていうのが分かってくれれば良いって。
宇多丸さん:宇内さんどうですか。インタビューを受けて文字起こししたまんまのような印象を受けませんか?
宇内さん:たしかに!「もう少し語尾を直したいんだけどな」てっ言う、文字起こしされた時の文章を読む感じですね。
RRCさん:保坂さんの文章は書き言葉ではなく話し言葉に近いフロウ。
ワンセンテンスが長いし、句読点の打ち方も会話時の息継ぎのタイミングに近い。
読みやすくは無いかもしれないが、フックがある。
宇多丸さん:「物語化」を一切しない、息するように書くのが保坂フロウ?
RRC さん:『残響』を読んだときにも独特のフロウに感じ入ったが、デビュー作の『プレーンソング』からこのフロウが完成していた。
宇多丸さん:あ、デビュー作なんだこれ!
推しの一節(片桐さん)
これって結構訓練がいるんです。こうやってビデオを撮っていると、僕はビデオのフレームで周りを見ちゃうわけでしょ?だから油断するっていうか、油断はちょっと大袈裟だけど、とにかくつい喋っている人とか、一番動いている人とかにカメラが行っちゃって。でもそういうのってどっか変でしょ?
宇内さん:うわ〜何かインタビューみたい!
宇多丸さん:整える前っていうかね。
これはどう言う場面ですか?
RRC さん:これは8mmをずっと回している登場人物が映像を撮る理由を語るシーン。その人物は保坂さん自身にゴダールを混ぜたキャラクター。
その人が話す映像のことは、端的にこの小説のことを言っているのに近い
宇多丸さん:「恣意的に切り取りがちだけど、それって要するに“恣意的”じゃん。それ以外の所取りこぼしてんじゃん」ってことですよね?
RRCさん:焦点を絞らずに引いた視点で浮かび上がってくる手触りがこの小説、って言う感じ。
宇多丸さん:小説でそれをやるのは難しいよね。だって焦点を絞る、何を書いて何を書かないかの取捨選択が絶対ある。
文章でそれを表現するのは実は滅茶苦茶凄いことにトライしている
RRC さん:海外文学で日常を切り取った描写に近い感じがする。
海外文学好きだからスムーズに読めたのかな。
海外文学特有のフロウがある。ちょっと読みにくい文体が好きだからハマったのかも。
推しの一節
本当以外の何者でも無いような、本当と言うのでもないし、作り話や、フィクションという枠組みに守られて、その中で面白がればそれで良いという話とも違っていて。
信じてしまう人間だけが信じてしまう。それは事実性からどうこう言う話ではなくて。話す側と聞く側の意思だけで意味とか、あるいは意味に近い何かを与えていく話で、僕はそう言う話が凄く好きなのだ。
宇多丸さん:後半論旨が分かりづらくなっていくところも本当の会話っぽい!言いながら考えているっぽいというか
宇内さん:確かに!どんどんズレていっちゃうみたいな
【前回】(同日)
eibunkeicinemafreak.hateblo.jp
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【関連】
TBSラジオ「アトロク」秋の推薦図書月間で、読書家集団リバーサイド・リーディング・クラブのikmさん、片桐さんが『プレーンソング』(保坂和志著)をご紹介くださいました📖
— 中公文庫(中央公論新社) (@chuko_bunko) 2022年11月18日
“パワー アンビエント小説”、まさに!🐱🏠🐎https://t.co/q1v0nZUoHc
書いていて気がついたけど、保坂和志さんは『書きあぐねている人のための小説入門』を書いた方じゃん!