腕時計好きにとって、「NATO」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは「NATOストラップ」ではないだろうか。
いや、正確には「NATOストラップだったのではないだろうか」、と言うべきか。
腕時計を構成する大きな要素として、ケース(恐らく一般的に「文字盤」と思われているであろう部位)とベルトが挙げられる。
出展:ウォッチ 基礎講座�@(各部の名称)「宝石広場」腕時計・ジュエリーのブランド販売・通販
腕時計は買ったままの状態で使うものだと思っている人も多くいるだろうが、実はそうとは限らない。
時計好きの中にはベルトを自分の好みのものに変えて楽しむ文化がある。
モデルによっては、付け替えが楽しめるようにはじめからベルトが2本付属するようなものもあるくらいだ。
ところで、この「ベルト」という部位はいくつか呼び名がある。
「ブレス(ブレスレットの略称)」、「バンド」、「ストラップ」などと呼んだりもする。
ベルトの素材も金属、皮革、樹脂、繊維と様々で、クラシカルな三針(※)モデルに軽やかな印象の繊維製のベルトを採用したり、ゴツいケースに優等生なイメージの革ベルトを合わせたりすることで、自分の手首に個性を演出することができる。
(※三針:時針・分針・秒針という時計における三つの針を指す。「三針モデル」、「三針時計」と呼ばれるモデルはシンプルなデザインの代名詞)
この「ベルト」に該当する部位の別称、面白いことに何となく素材ごとに組み合わせが決まっているようなきらいがある。こちらについては別記事で言及しようと思う。
では、冒頭の話題に戻ろう。
僕が時計に興味を持ち始めたばかりの頃のこと。
ミリタリーウォッチの中には、ナイロン製のベルトを着けたモデルが多く存在することに気が付いた。
程なくしてそのベルトが「NATOストラップ」と呼ばれていることを発見したのだった。
「NATOストラップ」。初めてその言葉に触れたとき、「NATOってあの“NATO軍”のNATO?」と思ったことを覚えている。
調べてみると、思った通り所謂NATO軍、即ち「北大西洋条約機構」が語源となっていることが分かった。
とはいえ、NATOストラップという言葉を知ってから10年程経った現在。
NATOという言葉を目にしたとき、すっかり僕は「北大西洋条約機構」よりも先に「時計のNATOストラップ」が思い浮かぶようになっていた。
「超弩級(超ド級)」という言葉が元々は「超ドレッドノート級」という戦艦の大きさを表す言葉だったにも関わらず、現代においては程度が甚だしい様を表す言葉に変化し、軍事的な色を失ったように。
それなのに。
それなのに、である。
2022年2月24日。
この日以降、僕の中で再びNATOという言葉は「NATO軍」を表す言葉に変わってしまった。
言うまでもなく、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が開始されてしまったからだ。
日々目にするニュースに「北大西洋条約機構」と言う文字が躍るようになった。
何故以上のようなことを長々と書いてきたかというと、Apple Watch用にNATOストラップ風のナイロンベルトを購入したから。
※本来NATOストラップは、1本のストラップをバネ棒の下を潜るようにケースの下側を通して装着するもの。
Apple Watchのベルトは構造の都合から上下に分離することになるので、「NATOストラップ」ではなく「NATOストラップ“風”」としている。
今まではApple WatchのNIKEモデルを購入した際に同梱されていた純正ベルトを使い続けてきたものの、気分を変えて新しいベルトが欲しいと思ったのだった。
そしてお目当ての商品を探そうと「Apple Watch NATOストラップ」と検索をかけた際、自分の中で「NATO」という言葉の並びが、この数か月の間に意味合いをすっかり変えていることに気が付いた。
ウクライナ危機は原油価格や穀物を初めとした農産物の価格上昇などを招いている。その“物質的”な変化の大きさは日々新聞報道で目にしてきた。
しかし、「ある言葉に対する認識」という僕の心の中、即ち“精神的”な領域にまで変化が及んでいることにはたと気付いた時、物価上昇以上にこの侵略行為が自分にとって身近なものであると感じたのだった。
僕は暴力に対する嫌悪感から、暴力に打ち勝つものを身に着けたくて法学部に進学した。
故に、今や侵攻開始から5カ月が経過しようとしているウクライナ危機に対しても、参院選直前に安倍元首相が銃殺されるという衝撃の事件に対しても、無力感と悔しい思いが強く滲む。
NATOの東方拡大を警戒して今般の侵攻を開始したプーチン大統領の行動が、結果的にスウェーデンとフィンランドの二カ国のNATO加盟を招く結果になったことはプーチン氏にとって大いなる皮肉と言って良いだろう。
僕がNATOストラップが欲しいと思った背景にウクライナ危機は関係無いものの、西欧諸国ではNATOストラップを着けることがプーチン氏に対するプロテストの表明になったりするんだろうか。
虹色の服飾品がLGBTQ支援を表明するものとして機能するようになったように。
今回の軍事侵攻に際し、ロシア軍が車両に「Z」マークをペイントしたことで、西欧諸国を中心にZを忌避するような動きが広がっている。
この「Z」というシンボルが何故今回の軍事侵攻で採用されたのか。
アトロクでも「今誰もZというシンボルが使われることになったルーツを分かっていない」と言われていたことを記憶している
過去の様々な報道を今見返してみると、このシンボルの意味するところが分からないまま4月後半に突入していったことが分かる。
(本エントリの最後に参考記事を記載する)
戦争という行為によって、それ以前から存在していた言葉やアイコンの意味合いが変わってしまう現実を僕らは目の当たりにした。
もしかすると数か月後にNATOストラップが親NATO(北大西洋条約機構)、反ロシアを表明するアイコンとして作用する日が来るかも知れない。
ロシア国民の誰もがこの戦争行為を支持しているわけでは無いだろう。
ロシア国内でNATOストラップの腕時計を着用している人が「非国民」と呼ばれる日が来ないことを願う。
【参照】ロシア軍のZマークに関する報道
3/8
ウクライナ侵攻のロシア軍、謎のマークZの意味は? プーチン政権支持のシンボルにも:朝日新聞GLOBE+
【解説】 なぜ「Z」がロシアで戦争支持のシンボルになっているのか - BBCニュース
3/14
「Z」ロシア国内で軍事行動を支持するシンボルに | NHK | ウクライナ情勢
4/20
ついに明かされたロシア軍「Z」の真の意味(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース
【関連】
国内でもこんな影響が……