映文計

映画と文房具と時計、好きなものから1文字ずつもらって「映文計」。映画のことを中心に日々綴っていきます。

12/1(木)アトロク秋の推薦図書月間2022㉒ 宇多丸さん

11月を終えて12月に入ったものの、2022年ラストとなる推薦図書はパーソナリティ宇多丸さんによる入魂の一冊(一冊?)。

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書籍紹介もゲームのようにイージー、ノーマル、ハードとモードが3つあり。

(※難易度設定は宇多丸さんによる紹介が楽か否か)


ハードは宇多丸さんが読み込みきれていないため紹介が難しい。


宇内さん:説明書き長いなこのゲーム……


宇多丸さん:まずはイージーレベルから紹介

 

イージー

国立映画アーカイブ 槙田寿文 監修 『脚本家 黒澤明


宇多丸さん:国立映画アーカイブで開かれていた展示の図録だけど、展示を見るに等しい内容の充実加減。


映画監督として知られる黒澤明だが、長年脚本家として努力されてきた。

ご自身の監督作品も何が良いかと言えば、脚本がまず良い。

非常にシナリオに注力されていた。

 

映画史に残る名作『七人の侍』の創作ノートには如何にして侍達や農民のキャラクターができ上がっていったのかが書き残されている。

 

少しずつプロットが練られていったため、初期構想の中には今我々が知るあの『七人の侍』とは異なる展開の案もあった。

そのプロセスが実際のノートをはじめ、数々の資料で明らかになる。

本作公開前に『映画ファン』1953年5月号の中には「特別読み物『七人の侍』」という、まだ出来上がる前の途中段階の脚本を元にしたあらすじ紹介が載っている。

今の『七人の侍』とは異なる展開。


構想を練る中で黒澤明監督がが手詰まりになる瞬間も有る。

なぜなら『七人の侍』は階級の話。侍という搾取的階級と虐げられてきた農民という構造があり、意識の差や互いに不信感が。


プロットを書いていく内にその溝が深まり、「これでは協力の仕様が無い」という事態に。

それを打開したのが三船敏郎の演じた菊千代と言うキャラクター(※当初は菊千代と言うキャラクターでは無い)。


黒澤さんはドストエフスキーバルザックなどを読んで「このキャラクターのここが面白い」というのをメモしていた。


そうしたキャラクターの要素を上手く活かして統合して菊千代を生み出した。

元の草稿にあった○○と言うキャラクターと、ロシア文学『××』の△△のハイブリッドによって生まれたのが菊千代。

菊千代一人を置くことで侍と農民の溝が一気に埋まった、などなど。


有名なエピソードとして、『隠し砦の三悪人』の創作秘話がある。

4人の名脚本家で旅館に泊まり込み、協力して脚本を書き上げた。

一人が難所を用意し、別の脚本家がそれを突破するアイディアを出す。

その一つ一つに対し、どのギミックが誰の案であったかのかを旅館に残された草稿等を頼りに検証。


完全に学術研究の世界。


『生きる』がどのようにブラッシュアップされていったのか、など、天才黒澤明といえども、強い脚本を作るために繰り返し繰り返しブラッシュアップをしていたことが分かる。


何故イージーかというと、本の説明をしているだけで十分面白さが伝わるから


宇内さん:実際にノートを見ると奇麗に書かれていて、如何に思考が整理されていたのかが分かる。

これ清書したとかじゃないですよね?こんなにノート奇麗なんだ!


宇多丸さん:字の感じで言うとハリウッドから声がかかって『トラ・トラ・トラ!』の制作に携わるも降板して、ハリウッド側に文句を言う際の手紙は文字が少し乱れている気がする


宇内さん:感情が表れているんですね


宇多丸さん:『七人の侍』なんて研究され尽くしていると思っていたけど、一次資料に当たって研究するとこんなに新しい発見があるのかと驚いた。


この番組を聴いている人の中には創作に携わる人も多いと思うが、「このキャラクターのここが面白い」というアプローチは有用かも。


ノーマル

映画批評の古典

『映画とは何か: 映画学講義』加藤 幹郎さん


映画評論家加藤幹郎さんの、映画批評の古典的一冊。

1990年代に刊行された本が2015年に復刊。

冒頭に載っている『サイコアナリシス』はヒッチコックの『サイコ』について書かれた章。

非常に短い評だが、切れ味バツグン。映画批評の金字塔、一つの理想と言えるもの。


加藤幹郎さんは「映画研究家の仕事は、それを観たにも関わらずそこで何者かが不可視にとどまっている、見えないものにとどまっていたことを指摘し、それが何故見えていなかったのか、その原因をテクストと歴史の双方に探ることにある」と仰っている。


まさにその実践としての誰もが知っている映画『サイコ』をこれほど鋭く読み込んだ。それも短い文章で。凄いです。

 

ハード

河野 真太郎『新しい声を聞くぼくたち』


河野さんは『戦う姫、働く少女』で注目を集めた作家・学者。

先日宇内さんが紹介してくれた『これからな男の子たちへ』など、ポストフェミニズム的な男性観の対になるような一冊。


映画やマンガなどの文脈下で男性表象が如何に変遷を遂げてきたかを分析していく。


この番組にも出て来た『ジョーカー』や『鬼滅の刃』などの作品が出て来る。

ヒックとドラゴン』三部作における男性像の変遷に迫る部分も面白い。1作目と比べて2,3作目が保守的に後退しているなど学びが多い一冊。

まだ十分に読み解けていないので「ハード」として紹介。

 

今年も盛り沢山だった……

僕は本を読むペースが遅いので悔しいことに昨年の推薦図書も全く読めていない。

どこかで時間を作ってアトロク推薦図書を読む強化月間を作りたいなぁ

 

 

 
 
 
 
 
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